冬の季語なのに春や秋の季節と間違われやすいものを五つ抜粋しました。◇小春日和(こはるびより)◇返り花(かえりばな)◇紅葉散る(もみじちる)◇落葉(おちば)◇探梅(たんばい)――。それぞれの季語の意味や間違われやすい季節のほか、各季語を使って詠まれた俳句も五句ずつ読み仮名付きで紹介しています。
小春日和の意味と小春日和を詠んだ俳句
小春日和。読み方は「こはるびより」。春の季語に間違われることがありますが、俳句では冬の季語になります。「小春」(こはる)は旧暦十月の別名。初冬(11月ごろ)の春先を思わせるような晴れた暖かい日のことを言います。厳しい冬を迎える前の温和な日和(ひより)をいとしむ気持ちが込められた季語です。小春日(こはるび)小六月(ころくがつ)というのも小春日和の同義語で俳句では春の季語ではなく冬の季語になります。●玉の如き小春日和を授かりし(たまのごとき こはるびよりを さずかりし)松本たかし(まつもとたかし)●海の音一日遠く小春かな(うみのおと いちにちとおく こはるかな)久村暁台(くむらきょうたい)●一人行き二人畦ゆく小春かな(ひとりゆき ふたりあぜゆく こはるかな)水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)●人肌のごと小春日が墓を抱く(ひとはだの ごとこはるびが はかをだく)中山純子(なかやまじゅんこ)●小春日や石を噛み居る赤蜻蛉(こはるびや いしをかみおる あかとんぼ)村上鬼城(むらかみきじょう)
返り花の意味と返り花を詠んだ俳句
返り花。読み方は「かえりばな」。「帰り花」とも表記されます。春や夏の季語に間違われることもありますが、俳句では、返り花は冬の季語です。立冬(11月7日ごろ)を過ぎた11月の暖かい日に、開花時期ではないのに季節外れに咲いた花のことをいいます。ふつうは桜の花を指しますが、ツツジの花や山吹(やまぶき)の花を指して言うこともあります。忘れ花(わすればな)狂い花(くるいばな)狂い咲き(くるいざき)返り咲き(かえりざき)なども返り花の同義語です。●帰り花母の言の葉詩に近し(かえりばな ははのことのは しにちかし)加藤千世子(かとうちよこ)●日あたりてまことに寂し返り花(ひあたりて まことにさびし かえりばな)日野草城(ひのそうじょう)●返り花三年教へし書にはさむ(かえりばな みとせおしえし しょにはさむ)中村草田男(なかむらくさたお)●返り花風吹くたびに夕日澄み(かえりばな かぜふくたびに ゆうひすみ)飯田龍太(いいだりゅうた)●返り花きらりと人を引きとどめ(かえりばな きらりとひとを ひきとどめ)皆吉爽雨(みなよしそうう)
紅葉散るの語意と紅葉散るを季語にした俳句
紅葉散る。読み方は「もみじちる」。秋の季語に間違われることも多いですが、冬の季語です。すっかり紅葉(こうよう)を終えて、ひたすら散り急いでいる紅葉(もみじ)の光景を読んだ言葉です。散って落ちている紅葉(もみじ)のことは散紅葉(ちりもみじ)といいます。なお「紅葉かつ散る」という季語がありますが、こちらは秋の季語。冬の季語ではありません。これから紅葉(こうよう)し始める木がある一方で、すでに散り始めている木がある。または、一本の木が、紅葉(こうよう)しながら、はらはらと散り始めている。そんな情景を詠んだのか「紅葉かつ散る」です。
●紅葉散る旅の衣の背に肩に(もみじちる たびのころもの せにかたに)五十嵐播水(いがらしばんすい)●紅葉ちる竹縁ぬれて五六枚(もみじちる たけえんぬれて ごろくまい)夏目漱石(なつめそうせき)●紅葉散り深大寺蕎麦の床几あり(もみじちり じんだいじそばの しょうぎあり)水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)●散紅葉こゝも掃きゐる二尊院(ちりもみじ ここもはきいる にそんいん)高浜虚子(たかはまきょし)●ちる紅葉鞍馬の杉の木の間より(ちるもみじ くらまのすぎの このまより)村上霽月(むらかみせいげつ)
落葉の意味と落葉を季語にして詠まれた俳句
落葉。読み方は「おちば」。秋の季語に間違われやすいですが、冬の季語になります。「らくよう」と読むこともあります。意味は、秋の終わりから冬にかけて落ちる木々の葉のこと。すでに散って地上に落ちている葉も「落葉」(おちば)といいます。冬の訪れを感じさせる言葉です。落葉が乾いて枯れてしまうと「枯葉」(かれは)という季語に変わります。●落葉して木々りんりんと新しや(おちばして きぎりんりんと あたらしや)西東三鬼(さいとうさんき)●或る枝の澄みて始めし落葉かな(あるえだの すみてはじめし おちばかな)平畑静塔(ひらはたせいとう)●爛々と虎の眼に降る落葉(らんらんと とらのまなこに ふるおちば)富澤赤黄男(とみざわかきお)●賽銭を落として払ふ落葉かな(さいせんを おとしてはらう おちばかな)向井去来(むかいきょらい)●落葉やや深きところが道らしき(おちばやや ふかきところが みちらしき)高野素十(たかのすじゅう)
探梅の意味と探梅を季語にした俳句
探梅。読み方は「たんばい」。「梅」が春の季語なので、春の季語に間違われやすいですが、冬の季語です。探梅の意味は、立春前のまだ寒い時期に、まだ咲いているかどうかわからない早咲の梅を求めて歩き回ること。探梅行(たんばいこう)「梅探る」(うめさぐる)は探梅の同義語。風雅な心を感じさせる言葉です。●探梅のゆき当りたる焚火かな(たんばいの ゆきあたりたる たきびかな)遠藤正年(えんどうまさとし)●探梅のこころもとなき人数かな(たんばいの こころもとなき にんずかな)後藤夜半(ごとうやはん)●探梅や遠き昔の汽車に乗り(たんばいや とおきむかしの きしゃにのり)山口誓子(やまぐち せいし)●探梅やみささぎどころたもとほり(たんばいや みささぎどころ たもとおり)阿波野青畝(あわのせいほ)●探梅や人が覗きて井は古りぬ(たんばいの ひとがのぞきて いはふりぬ)前田普羅(まえだふら)