秋の季語なんだけど夏の季節と間違われやすいものを五つ抜粋しました。◇七夕(たなばた)◇朝顔(あさがお)◇お中元(おちゅうげん)◇西瓜(すいか)◇盆踊(ぼんおどり)……。それぞれの季語の意味や間違われやすい季節のほか、各季語を使って詠まれた俳句も五句ずつ読み仮名付きで紹介しています。
七夕の読み方と七夕を季語にして詠んだ俳句
七夕。読み方は「たなばた」。旧暦七月七日の夕方、またはその日に行なう行事の総称。今の暦(新暦)だと七月七日は夏になりますが、旧暦の七月七日は立秋(新暦八月七日ごろ)を過ぎているので、七夕は秋の行事とみなされ、俳句では夏の季語ではなく秋の季語になります。七夕は、五節句(※)のひとつで「七夕の節句」(しちせきのせっく)ともいいます。七夕の同義語には、七夕祭(たなばたまつり)星祭(ほしまつり)星迎(ほしむかえ)星合(ほしあい)星今宵(ほしこよい)七夕竹(たなばただけ)七夕流し(たなばたながし)などの季語ががあります。
※五節句(ごせっく)…一月七日の人日(じんじつ)、三月三日の上巳(じょうし=桃の節句)、五月五日の端午(たんご=端午の節句)、七月七日の七夕(しちせき)、九月九日の重陽(ちょうよう)のこと。
●七夕や秋を定むる夜のはじめ(たなばたや あきをさだむる よのはじめ)松尾芭蕉(まつおばしょう)●七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ(たなばたや かみぬれしまま ひとにあう)橋本多佳子(はしもとたかこ)●七夕を流すや海に祈りつつ(たなばたを ながすやうみに いのりつつ)大野林火(おおのりんか)●七夕竹惜命の文字隠れなし(たなばただけ しゃくみょうのもじ かくれなし)石田波郷(いしだはきょう)●うれしさや七夕竹の中を行く(うれしさや たなばただけの なかをゆく)正岡子規(まさおかしき)
朝顔が秋の季語とされる理由と朝顔を詠んだ俳句
朝顔は俳句では夏の季語ではなく秋の季語になります。今の暦(新暦)では夏の花のイメージが強い朝顔ですが、朝顔が盛んに咲くのは、立秋(八月七日ごろ)を過ぎてから。したがって、朝顔は立秋を過ぎてから(秋を迎えてから)咲き出すという理由で、秋の季語に入れられました。●朝顔の紺の彼方の月日かな(あさがおの こんのかなたの つきひかな)石田波郷(いしだはきょう)●朝顔に我は飯くふ男かな(あさがおに われはめしくう おとこかな)松尾芭蕉(まつおばしょう)●朝顔や一輪深き淵のいろ(あさがおや いちりんふかき ふちのいろ)与謝蕪村(よさぶそん)●朝顔や濁り初めたる市の空(あさがおや にごりそめたる いちのそら)杉田久女(すきたひさじょ)●朝顔の終の一花は誰も知らず(あさがおの ついのいっかは たもしらず)福田蓼汀(ふくだりょうてい)
お中元の語意とお中元を季語に詠まれた俳句
中元(ちゅうげん)とは、もともとは旧暦(陰暦)の七月十五日を意味した言葉で、寺院に捧げ物をして、先祖の霊を供養する意味あいがありました。その習わしがやがて世話になった人に贈答品などを贈る習慣に発展しました。陰暦の七月十五日は「立秋」を過ぎているので(陰暦の立秋は六月後半から七月前半に当りますので)、お中元は秋に行なわれる行事ということで、夏の季語ではなく、秋の季語になります。お中元と同義語として、盆礼(ぼんれい)盆供(ぼんく)盆見舞(ぼんみまい)といった季語があるのは、旧暦の七月十五日(中元)に先祖の霊に供え物を捧げて供養した仏事=お盆を行なったことによります。
●中元のかずかず並べきめまどふ(ちゅうげんの かずかずならべ きめまどう)野村泊月(のむらはくげつ)●乾瓢や水引かけてお中元(かんぴょうや みずひきかけて おちゅうげん)村上鬼城(むらかみきじょう)●寺多き町を通りて中元に(てらおおき まちをとおりて ちゅうげんに)岡野亜津子(おかのあつこ)●盆礼やひろびろとして稲の花(ぼんれいや ひろびろとして いねのはな)高野素十(たかのすじゅう)●盆礼に忍び来しにも似たるかな(ぼんれいに しのびきしにも にたるかな)高浜虚子(たかはまきょし)
西瓜の読み方と西瓜を季語にして詠まれた俳句
●切売の西瓜くふなり市の月(きりうりの すいかくうなり いちのつき)正岡子規(まさおかしき)●畠から西瓜くれたる庵主かな(はたけかな すいかくれたる あんじゅかな)炭太祇(たんたいぎ)●風呂敷のうすくて西瓜まんまるし(ふろしきの うすくてすいか まんまるし)右城墓石(うしろぽせき)●どこにこのしぶとき重さ西瓜抱く(どこにこの しぶときおもさ すいかだく)山口誓子(やまぐちせいし)●まんまろき月のあがりし西瓜番(まんまろき つきのあがりし すいかばん)富安風生(とみやすふうせい)