昭和世代が書いたラブレターと返事の文面|求愛・承諾・謝絶

メールもLINEもなかった昭和の時代。相手に好きという思いを伝えるのは手紙が主役でした。恋文(こいぶみ)なんていう古風な言葉で呼ばれたりもしました。パソコンもワープロもなかったので手紙はもちろん手書き。万年筆と便箋を用意して「ペンに思いを込め」「便箋に愛をしたためる」――昭和30年代から昭和50年代にかけて、当時の男性や女性が書いたであろうラブレター文面を再現しました。愛を告白する求愛の手紙、愛を受け入れる承諾の手紙、断る謝絶の手紙、三文例。昭和世代には懐かしい、平成世代には笑える(?)文章になっています。

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求愛の手紙|女子社員に対し先輩男性社員から

恭子様 今まであなたとわたしは、ただ同じ会社に勤める同僚にすぎませんでした。四月に新入社員を迎えたとき、わたしはあなたの存在に気づきましたが、それ以上の気持ちはありませんでした。しかし、今度の展示会で偶然ごいっしょにお仕事をするようになったとき、わたしのあなたに対する気持ちは、徐々に変わってまいりました。
 
わたしがいつも、とくにあなたのそばで仕事をしていたのにお気づきでしょうか。あなたの一挙手一投足、すべてがわたしの関心事でした。あなたが案内状を折っているとき、わたしがじっとあなたの指の動きを見ていたのをご存じでしょうか。封筒の宛名で分からない文字をわたしに聞いてくださったときの、わたしの心臓の高鳴りにお気づきだったでしょうか。
 
わたしはおおぜいの人が集まっている中で、わたしの気持ちをあなたに打ち明けるほどの勇気を持っておりません。夜遅く、みんなが分かれるとき、「あしたもどうぞよろしく」とあなたにかける言葉が、わたしとしては精一杯でした。
 
わたしはうちへ帰ってからも、あなたのまなざしが忘れられませんでした。仕事のことで何気なくわたしを見てくださるときのまなざし、わたしの目の前に差し出されるあなたのやわらかい手、横かな眺めるあなたの清潔な襟元、生き生きとしたほお、魅力的な耳、すべてがわたしの目の底に焼きつけられております。
 
わたしは、一度でいいから、みんなの目を逃れて、あなただけとお話ししたい気持ちでいっぱいです。展示会も終わる十月二十日の日曜日の午後、わたしと二人だけで銀座を歩いてくださいませんか。よろしかったら、当日午後二時、新橋駅銀座口の改札口で待ち合わせましょう。
 
よいご返事をお待ちしております。

解説

昭和世代にとっては胸が苦しくなるような恋文ですね。平成世代からしてみれば『あなたが案内状を折っているとき、わたしがじっとあなたの指の動きを見ていたのをご存じでしょうか。』なんて文面は「ストーカーじゃねぇか」とか「キモい」とか言われそうですが……。でもまあ一途に女性を思う気持ちは伝わってきます。
 
さて、職場の先輩男性からこんなラブレターが届きました。それに対する返事は二つ。愛の告白(求愛)を受け入れるか断るか。ラブレターを送った男性にとっては天国が地獄か。まずは、天国(愛を受け入れるラブレターの返事)のほうから見てみましょう。

ラブレターの返事|わたしも同じ気持ちです。

賢治様 このたびはごていねいなお手紙、ありがとうございました。あなたのわたしに対するお気持ち、よく分かりました。そうして、不思議なことに、わたしも、あなたに対して同じような気持ちを持っていたことを告白しなければなりません。
 
わたしも、あなたのおそばで仕事をするのが、とても楽しみでした、案内状を折っているとき、わたしの頭はあなたのことでいっぱいでした。何かあなたに話しかける機会はないかと、そればかり思っておりました。
 
わたしとしては、封筒の宛名の文字が分かりにくいとき、それを聞くのが精一杯でした。あのとき、あなたの顔がわたしのほおのそばに寄ってきて、あなたの整髪料の香りがわたしの顔を包んだとき、わたしの心臓が高鳴ったのにお気づきだったでょうか。最後にお別れするときの、あなたのお言葉「あしたもどうぞよろしく」というのが、暗い夜道を急ぐわたしの耳に、いつまでも繰り返されていました。
 
一度二人だけでお話ししたいというお気持ち、わたしも同じです。二十日・日曜日の午後二時、新橋駅銀座口改札口でお会いできるのを楽しみにしております。ご返事はお電話でもよいものの、なかなか人目がうるさく、口にも出せません。けっきょくお手紙にいたしました。どうかよろしくお願いいたします。
 
右、とりあえずご返事まで。
ではまた

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解説

こんなラブレターの返事が届いたら天にも上る気持ち。まさに天国です。文中の「あなた」も効いています。「ご返事はお電話でもよいものの、なかなか人目がうるさく…」なんて箇所は携帯電話がこの世に存在していなかった昭和の時代を感じる一節です。
 
なによりも文章に品があります。声に出して読んでみるとみるとやわらかい響きで女性の思いが伝わってきます。若者言葉もカタカナ英語も使っていませんので、日本語のもつ美しい語感が感じられます。まさに「恋文」といった文章です。
 
ラブレターの返事は「承諾」だけではありません。断わられることもあります。手紙で愛を告白した者にとってはまさに地獄。そんなラブレターの返事=謝絶の手紙をみてみましょう。

ラブレターの返事|仕事の上だけのお付き合いです。

拝復 このたびは、お手紙ありがとうございました。結論を先に申しますと、木村さんがわたしに対してそんなお気持ちでおられたのにびっくりいたしました。
 
わたしは、ただ命令されて今度の展示会の準備をしているだけであり、仕事の上でおつきあいしているにすぎません。もちろん木村さんはお仕事の上では先輩であり、わたしは木村さんにいろいろご指導をお受けしなければならない立場にあり、その点で木村さんを心から尊敬しております。しかし、わたしが木村さんに宛名の字を聞いたとしても、それはただ先輩の指導を受けたというだけで、ほかの理由はありません。
 
ただし、こんなことを言ったために、今度の展示会の仕事で、木村さんと気まずい間になったら困ると、ずいぶん悩みました。しかし、けっきょく、仕事は仕事、会社の仕事をしているときに個人的な感情を混ぜるようなことは、やはり避けたいと思い、お手紙を書くことにしました。
 
どうか意のあるところをおくみ取りのうえ、今までどおり、同僚としてのおつきあいにとどめていただきたいと思います。ご期待に添えないことは残念ですが、何もなかったこととして、お許しいただきたいと存じます。
 
右、思うとおりに書かせていただき、ご返事といたします。どうかあしからず。
敬具

解説

承諾の返事の場合は、文中で「あなた」とやさしく呼びかけていますが、謝絶の場合は「木村さん」と名字で事務的に呼んでいます。承諾と謝絶の空気感が見てとれます。
 
やんわりと、どっちつかずの言い方をするのではなく、「わたしは、仕事の上でおつきあいしているにすぎません。」と、きっぱり言い切っているのが見事。ただし文章全体から受ける印象はとげとげしさは感じられません。
 
言葉に気をつかいながら相手の気持ちを思いやっているのが伝わってきます。ラブレターの返事が来ないのもつらいですが、こうやってきっぱりと断られたほうが、かえってすっきりしますし、あとくされも残りません。
 

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