杉戸不動尊の名で親しまれている埼玉県杉戸町にある真言宗智山派の寺院・宝性院(ほうしょういん)。十三仏が祀られている客殿のほか境内の一角にある日光街道でいちばん大きな石造りの馬頭観音(ばとうかんのん)など歴史的価値のある建造物や装飾品なども数多い。2019年10月31日。杉戸不動尊宝性院を訪ねた。御朱印もいただき、住職と奥さまから寺の由緒や秘話などもうかがうことができた。
寺務所
本堂でお参りをすませたあと境内を散策しようと思っていたところ住職の奥さまから声をかけられ客殿でお茶をいただくことになった。寺務所に案内され、中に通された。寺務所の入口に小さな鐘が置かれている。用があるときはこの鐘を鳴らしてほしいとのこと。ためしに鳴らしてみた。けっこういい音がする。鐘の音を聞いて奥から住職が出てきた。「御朱印てすか」と聞かれ、御朱印帳も持っていたので、御朱印をお願いした。
十三仏
御朱印を待っている間、客殿にある十三仏(じゅうさんぶつ)をぜひお参りしてください、と、奥さまがおっしゃるので、十三仏に案内していただいた。客殿の廊下を通って十三仏が安置されている仏間へ行くと、不動明王・釈迦如来・文殊菩薩……など、十三の仏様が並んでいる。十三仏とは、亡くなった人を浄土に導いてくださる十三尊の仏さまで、干支の守り本尊でもある(干支の守り本尊に含まれない仏もいる)。どの仏も美しい姿をしている。この十三仏は、住職夫婦が中国に行って、仏師に彫ってもらったそうだ。
01.不動明王(ふどうみょうおう)
02.釈迦如来(しゃかにょらい)
03.文殊菩薩(もんじゅぼさつ)
04.普賢菩薩(ふげんぼさつ)
05.地蔵菩薩(じぞうぼさつ)
06.弥勒菩薩(みろくぼさつ)
07.薬師如来(やくしにょらい)
08.観世音菩薩(かんぜおんほさつ)
09.勢至菩薩(せいしぼさつ)
10.阿弥陀如来(あみだにょらい)
11.阿閦如来(あしゅくにょらい)
12.大日如来(だいにちにょらい)
13.虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)
私の干支(申)の守り本尊である大日如来に手を合わせた。
十三仏をお参りしたあと散華(さんげ)を一枚いただく。散華とは、法会などで仏様を供養するときにまき散らす花びらの形をした紙のこと。持ち帰って、お守りとして財布の中に入れるか、愛読書のしおりに使おうと思う。
客殿
客殿の廊下の棚には、煙管(きせる)や煙草盆(たばこぼん)のほか、彫刻が施された硯(すずり)が展示されている。どれも立派なものばかり。硯の最高峰と呼ばれる端渓硯(たんけいけん)もあった。内陣(ないじん)で仏様に手を合わせ寺務所に戻る。
宝性院の歴史
住職の奥さまがお茶を入れてくださった。お茶とお供物をいただきながら話をうかがった。宝性院は、460年ほど前、室町時代の永禄(えいろく)3年(1560年)に開かれたお寺で、境内の不動堂に、安産子育て不動尊・菅谷不動尊・成田不動尊の三尊が祀られていることから、地元では杉戸不動尊(すぎとふどうそん)と呼ばれている。江戸時代は寺子屋があり、明治期には小学校が置かれたこともあって、昔から子どもの成長と教育に携ってきた。定年退職をした小学校の校長が、子供たちのために使ってほしいと、退職金を全額寄付してくれたこともあるそうだ。宝性院では今でも夏休みに寺子屋を開催している。
御朱印
そうこうしているうちに、ご住職が御朱印を書いてきてくださった。見開きになっていて、右が私の守り本尊である大日如来、左が不動明王の御朱印になっている。不動明王は大日如来の化身とも呼ばれているので、まさに私にぴったりの御朱印だ。なお宝性院にはさまざまな仏様がいらっしゃるので御朱印の種類もいろいろある。宝性院観音堂
ご住職が「ぜひ見ていただきたい場所がある」と、案内してくださったのが、参道に建てられている観音堂。近代美術館を思わせるような造りだ。木がふんだんに使われ、窓は大きくとられいてるのでとても明るい空間になっている。宝性院観音堂では、ワークショップや演奏会、落語会・寺ヨガ・展覧会など、さまざまなイベントを開催。地域コミュニティづくりにも貢献している。正面に安置されているのは、木造の十一面観音菩薩立像(じゅういちめんかんのんぼさつぞう)。一本の木から掘り出した一木造(いちぼくづくり)の見事な十一面観音菩薩立像だ。
壁には曼陀羅(まんだら)が掛けられている。この中に400以上の仏様が描かれているそうだ。作家さんがひとつひとつ描いて仕上げたのだから気の遠くなるような作業だ。十一面観音菩薩に手を合わせ、観音堂を出る。ご住職にお礼を言って、宝性院をあとにした。
境内の風景
宝性院の見どころもいくつか紹介しておく。上の写真は、客殿の軒下に置かれている老松の幹。境内にあった樹齢400年の松が枯れてしまったので伐採したもの。老松から十一面観音菩薩の梵字(ぼんじ)を刻んだ念珠を作成。吉祥腕輪念珠として販売もされている。山門
山門(さんもん)。朱塗りされた四本の柱の上に屋根が乗る四脚門(しきゃくもん)の形式。屋根は切妻造りで本瓦葺が使われている。庚申塔
庚申塔(こうしんとう)。山門の脇には三基の庚申塔がある。左は文字文字塔。真ん中は青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)庚申塔。江戸前期・延宝8年(1681)造立。右は笠付型青面金剛像庚申塔。江戸後期・文化11年(1815)造立不動堂
不動堂(ふどうどう)。安産不動尊・菅谷不動尊(すがたにふどうそん)・成田不動尊の三尊が祀られている。扁額(へんがく)には、武田信玄の子孫・武田信之(たけだしんし)が、宝性院に立ち寄ってさいに書いた「不動」の文字がみられる。