2020年6月29日。茨城県古河市中田にある大善院(だいぜんいん)で石仏の調査を行ないました。大善院は、元・修験道(しゅげんどう)当山派の寺院(現在は神社)で、中田大善院(なかだだいぜんいん)とも呼ばれています。境内に置かれている阿弥陀如来を主尊とする古河市最古の庚申塔をはじめ普門品供養塔・百万遍供養塔・馬頭観世音文字塔・弁財天文字塔など、12基の石仏を写真とともにお伝えします。
本堂橫手の石仏
本堂に向かって左手にある鞘堂(さやどう)の中に五基の石仏が並べられています。鞘堂とは、石仏などを風雨から保護するために建てた簡単な造りのお堂のこと。覆堂(ふくどう・おおいどう)覆屋(おおいや)などとも言います。阿弥陀如来像庚申塔
向かって右端にあるのは阿弥陀如来像庚申塔。江戸前期・延宝8年(1680)建立。高さ1メートル31センチ・幅63センチ。古河市に現存する70基ほどの庚申塔の中で、もっとも古いものです。石碑の形状は舟形光背型で、阿弥陀如来立像が浮き彫りされています。銘文には「延寳八庚申八月 施主敬白 同行六十二人」とあり、蓮華座に三猿(さんえん)が彫られています。江戸時代の庚申塔というと、主尊は青面金剛(しょうめんこんごう)がほとんどですが、阿弥陀如来を主尊にした庚申塔というのは珍しく、古河市の有形民俗文化財にも指定されています。大善院の阿弥陀如来像庚申塔は、庚申塔の主尊が青面金剛に一般化する前の江戸時代初期の形態を示す貴重な石仏といえます。
台座に彫られた三猿が庚申塔であることを示しています。
阿弥陀如来像
右から二番目は阿弥陀如来像。造立は江戸前期・延宝4年(1676)。高さ93センチ・幅40センチ。舟形光背型の石塔に、蓮華座に乗った阿弥陀如来像が浮き彫りされています。右手を上げて左手を下げ、ともに手の平を前に向けて、親指と人差し指で輪を作る来迎印(らいごういん)が阿弥陀如来像の特徴。銘文に「延寳四丙辰天七月」とあります。施主名などが刻まれているようですが、風化が進んでいて、解読不能。丸彫り聖観音像百万遍供養塔
真ん中にあるのは丸彫り聖観音像百万遍供養塔(しょうかんのんぞう・ひゃくまんべん・くようとう)。江戸中期・安永5年(1776)造立。高さ73センチ・幅27センチ。蓮華座に乗った立像の聖観音が丸彫りされています。台石の正面に「安永五申天 百万遍供養塔 八月吉日」とあり、側面に「船渡町 講中廿三人」と刻まれています。船渡町(ふなとまち)は古河市の旧地名。百万遍供養塔とは、念仏塔(ねんぶつとう)とも呼ばれ、集落の人々が、講(こう)と呼ばれる集団を作り、「なむあみだぶつ」を唱えて、全員の念仏が百万回に達したことを記念に建てたものです。
丸彫り地蔵菩薩像念仏塔
左から二番目にあるのは地蔵菩薩像念仏塔。江戸中期・享保9年(1724)造立。高さ1メートル・幅30センチ。蓮台(れんだい)に乗った立像の地蔵菩薩が丸彫りされています。台座の正面には「享保九甲辰年九月吉日 奉造立念仏講中為二世安楽 願主 船渡町講中 謹言」とあるので、地元・船渡町の念仏講の人たち(講中)が、二世安楽(にせあんらく=現世と来世にわたって安楽が得られること)を願って造立したことがわかります。
聖観音像普門品供養塔
左端にあるのは、聖観音像普門品供養塔(しょうかんのんぞう・ふもんぼん・くようとう)。江戸中期・明和6年(1769)造立。高さ90センチ・幅31センチ。光背型の石塔に、蓮台に乗った立像の聖観音が浮き彫りされています。銘文には「普門品供養 明和六己丑年十月吉日」とあります。普門品(ふもんぼん)とは、観音経(かんのんきょう)とも呼ばれ、法華経(ほけきょう)の中の観世音菩薩普門品の略称。観音様が人々を苦難から救済し、願いをかなえてくれることを説く教え。普門品を一定回数誦経(ずきょう)した記念に建てたのが普門品供養塔です。
台座には「當町 願主八人 講中」とあります。當町(当町=とうまち)は大善院のある中田町のこと。中田町の念仏講のメンバー8人が建てたことがわかります。
稲荷社裏手の石塔
境内にある稲荷社の裏手には、石塔や石祠などが 7基ほど並べられています。もともとは別の場所にあったものが、壊れたり、道路拡張や区画整理などの理由で、この場所に保管されているものと思われます。三宝荒神文字塔と石祠
上の写真、左から故人の記念碑、三寳荒神(さんぼうこうじん)文字塔、石祠(祭神は不明)。石祠の中には御幣(ごへい)が捧げられ、石塔の前には御神酒が供えられているので、ほったらかしにされているのではなく、日々、供養されていることがうかがえます。故人の記念碑の前には、何らかの理由で、取り壊されたか、または破損した稲荷社の祠の屋根・石額・神使(しんし)のキツネがまとめられています。「昭和六十一年二月十日 稲荷社新築」と記された石額に「初期 文久二年 再建 昭和六十一年」とあるので、江戸末期の文久2年(1862)年に建立された稲荷社を昭和61年(1986年)に新築(再建)したときのもののようです。
文字塔
金山大権現(かなやまだいごんげん)稲荷大明神文字塔と、大杉大明神・金比羅神社文字塔。造立年代は不詳。大杉大明神(おおすぎだいみょうじん)とは、茨城県稲敷市阿波(あば)にある神社で、「あんばさま」「悪魔ばらえのあんばさま」の名で親しまれている厄除の神様です。弁財天文字塔・稲荷宮文字塔
弁財天文字塔と、笠付き角柱型の稲荷宮文字塔(江戸後期・天明7年=1787=造立)。稲荷宮文字塔の右側面に「下総国大山村」、左側面に「天明七丁未九月」とあり、寄進者の氏名もみえます。馬頭観世音文字塔
馬頭観世音(ばとうかんぜおん)文字塔。江戸後期・文政8年造立。銘文に「文政八年」「乙酉」(きのととり)とあります。もともとは、近郊の路傍か村境に置かれていたものと思われます。馬頭観世音は、一般的には馬頭観音(ばとうかんのん)と呼ばれ、江戸時代以降、農耕馬の供養や墓標を目的として、農村部で数多く造立されました。中田大善院|参拝情報
中田大善院の住所は茨城県古河市中田2194( 地図 )。住所の読み方は「いばらきけん こがし なかだ」。郵便番号は 306-0053 。電話番号は 0280-48-1866 。身体の悪いところを毎日なでて祈願する六三除(ろくさんよけ)のお札がいただけるほか、交通安全・厄除祈願、初宮詣のご祈祷なども行ないます。最寄駅は、JR宇都宮線の栗橋または古河になりますが、栗橋駅からは約4キロ、古河駅からは約6キロありますので、車での参拝をおすすめします。バスはありません。車でのアクセスは、東北自動車道・加須インターチェンジから約25分です。国道125号・中田町(北)信号から100メートル。駐車場は20台ほど駐められるスペースがあります。